2013年09月16日

ススキは大きな役割をもっていた

 今月19日は十五夜です。この時期、そこここで秋の七草を目にしますが、十五夜と相性のいいススキも、秋の七草のひとつです。
 十五夜の月見にススキを飾るのは単なる演出ではありません。かつては、もっと別の重要な意味がありました。農作物を病虫害や自然災害から守り、豊作を願うという、大切な農耕儀礼だったのです。
 秋の七草の元になったとされる、万葉集に収められた山上憶良の歌では、ススキではなく、尾花の名で詠まれています。「萩の花 尾花 くず花 なでしこが花 をみなえし また藤袴(ふじばかま) 朝顔が花」。
 容易に想像がつくと思いますが、尾花と呼ばれるのは、穂の形が獣の尻尾に似ているからです。
 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という、よく知られた言葉があります。幽霊かと思ったけれど、よく見たら枯れススキだった……。怖いと思いながら物を見ると、なんでもない物まで恐ろしい物に見えるということを言った言葉です。
 ススキは単なる野草ではなく、観賞用としても愛好されていますが、昔は実用面でも暮らしに密着し、身近なところで大きく役だっていました。
 そのひとつに、屋根材としての利用があります。刈り取って乾燥させ、屋根を葺いたのです。ススキはイネ科に属していますが、このイネ科とカヤツリグサ科の草本を総称してカヤと呼びます。そのカヤで葺いた屋根がカヤ葺き屋根というわけです。
 また、屋根のほか、炭俵や箒、草履(ぞうり)などを作る材料としても使われるなど、現代では考えられないほど重宝されていたのです。
 先人は、ススキが一面に茂る野原を特別に芒野(すすきの)と呼び、普通の野原とは区別していました。青葉のうちは金の穂、枯れてからは銀の穂。それらが風にそよぐ、美しくもあり、わびしくもある光景。芒野と名づけた先人は、どんな思いで見ていたのでしょう。
 ところで、俳諧ではススキを秋の季語としていますが、枯れススキとなると、冬の季語に変化します。一茶はこう詠んでいます。「ちる芒(すすき)寒くなるのが目に見ゆる」。




ポケット図鑑 日本の野草・雑草
ラベル:十五夜 秋の七草
posted by プッチン at 09:24| 植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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